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USCPAとしてアメリカで働くことの現実性

2023年8月18日
  • 時事ニュース
  • 海外

2017年9月17日 / 最終更新日:2023年8月18日

以前、アジアの会計事務所における日本人の役割と仕事内容というTopicで記事を公開しましたが、USCPA(米国公認会計士)なんだからアメリカについて書いてくれ、という声をちらほらと頂きましたので、今回はアメリカをテーマに挙げさせて頂きます。

これまでUSCPA合格者や学習中の方から、「アメリカで働きたいんだけど、どんな求人ありますか?」「どのようにアメリカの求人を探したらよいですか?」などのご相談も頂いてきましたが、やはりUSCPAを目指す方の中には、アメリカでの就業を志している方も数多くいらっしゃることと思います。

弊社SACTでは原則としてアメリカを含む海外勤務の求人を扱っておりませんが、アメリカで働いているUSCPA、会計事務所を運営しているUSCPAの方々から頂く話をベースに、移民政策や就労ビザ等の情報を絡め、筆者の見解を書き綴っていきたいと思います。尚、既に就労ビザを所有しアメリカで働いている方、グリーンカード保有者向けの記事ではなく、日本からアメリカに渡航して勤務する、という点で書かせて頂きます。

■アメリカの会計事務所では会計・税務・監査等の実務面に関わることが多い

アジアの会計事務所では、会計・税務・監査等の実務面に関わることは少ない、と触れさせて頂きましたが、アメリカの会計事務所においては実務に直接関わることが多いです。法人・個人確定申告作成をしたり、監査人として田舎にある工場の実地棚卸の立ち合いに行ったりなど、会計・税務・監査そのもののサービスラインに入る形です。

これはローカル採用の人件費が安いアジアと、人件費の高いアメリカ等の先進国との違いによるものと思われますが、日系企業を中心に顧客を持つアメリカの小規模~中規模の会計事務所においては、事務所内における日本人の比率が高いです。

もちろん大手Big4会計事務所では、『Japan Desk』『Japan Practice』などと呼ばれる日本企業専門のセクションがあり、そこでは日系企業の窓口やコーディネーション業務をメインとし、実務に関わることは少ないのですが、監査や税務などの実務部隊に入って活躍されているUSCPAの方も数多く存在します。

■『現地採用』と『日本採用からの海外駐在』について

本題に入る前に、アメリカに焦点を絞りつつも、広義では海外勤務となりますので、その海外勤務の形態についても少しだけ触れておきますが、大きく分けて、『現地採用』と『日本採用からの海外駐在』に分けられます。

『現地採用』とはその名の通り、海外現地法人で採用され、雇用主は現地法人となることを意味し、その雇用契約などは現地の法規制に準ずることになりますので、もちろん日本における被保険者資格は喪失することになります。

『日本採用からの海外駐在』についても、その言葉通りの意味となりますが、雇用主は日本国内の企業で、その企業から海外現地法人に出向という形になります。転籍出向のケースは除きますが、被保険者資格がそのまま維持されることになります。

その他違いは多々ありますが、テーマの趣旨から外れますので、この点はこれくらいで。

■アメリカ勤務に立ちはだかる就労ビザという大きな壁

さて、ようやく本題に入っていきますが、外国人が日本で働くのと同じように、日本人が外国で働こうとする場合、必ずビザ(査証)の取得が必要になります。

アメリカですぐに働く場合、『現地採用』という形態をとる必要がありますが、特殊なやり方を除けば、通常H-1Bビザ(専門職ビザ)を取得する必要があります。この取得が非常に困難で、仮にビザスポンサー(就業先)が見つかり、不備なく申請書類を出せば取得できるものではなく、『運』に左右されるものとなっています。

この記事を作成した2017年の時の話では、H-1Bビザ発行の年間上限枠数65,000件(+マスター枠20,000件)に対して、2017年4月から受付を始め、5日間で約20万件(マスター枠含む)の申請があり、そこからコンピュータによる抽選が行われ当選した人のみその後の審査に進む形で、トランプ政権時代の移民政策については割愛しますが、現在もその抽選方式は続いており、年間上限枠数も65,000件(+マスター枠20,000件)と変わらず続いております。ただ、この2023年度は48万件超の申請数があり、その当選率は6人に1人(それまでは3,4人に1人で推移)とかなり厳しいものになっております。

尚、H-1Bは誰でも申請できるわけではなく、学位と職務内容が一致していることが条件です。例えば、「アメリカで会計の仕事をするのに外国語学部出身です」はNGです。学位が異なる、若しくは短大卒等の場合は、その専門分野の仕事に最低6年間従事していることが求められます。

■会計の知識や経験を持った日本人は圧倒的に不足している

アメリカ現地のBig4に関しては情報が不足しており、何とも申し上げられないのですが、アメリカ現地に所在する小規模~中規模の会計事務所に関しては、アメリカ現地の転職エージェントや事務所を運営している公認会計士やUSCPAの方々から話を聞いた限りでは、会計の知識及び経験を備えた日本人はかなり不足しているとのこと。

現地アメリカで、就労ビザやグリーンカードを持った日本人を採用するとなると、かなりの高コストとなり、採用そのものができずに苦しんでいる事務所もあれば、筆者自身も少し関わってきたという経緯もございますが、現地での採用を諦め業務を他の国にアウトソーシングして、人員採用以外の方策で何とか凌いでいる、という事務所もあります。

ただ、人手不足とは言え、H-1Bビザ取得の困難さや運不運に左右される状況から、ビザ取得申請にかかる費用(弁護士料、申請料など)を出してまで、ビザを保有していない人間を日本から連れてこようという事務所は、ゼロとは言いませんがかなり少ないのが現状で、2023年の当選率の低さを勘案すると、ビザスポンサーになろうという事務所はさらに減少すると思われます。

■インターンの可能性について

アメリカの会計事務所の採用ページでたまに見かけるインターンの募集。過去に関わってきたUSCPA(学習中の方含む)の方で、アメリカで働きたいという方の多くが、このインターンを選んでいます。

インターンの場合は、J-1ビザというインターン、研修生用のビザを取得する必要がありますが、雇用主(スポンサー)さえ見つかれば、他の労働ビザに比べて取得しやすく、手続きも費用の負担が少ないものになります。

ただし、「最長18ヶ月まで」という制限があり、このJ-1ビザは延長はできません。それ以上アメリカに滞在して働くためには、H-1B等への切り替えが必要となりますが、上述のとおり抽選を行いますので運に左右されることとなり、当選率の低さを含めて考えると、切り替えはより一層厳しいものとなっております。

尚、J-1ビザ取得者には、2年以上アメリカ国外で生活しない限り他のビザの申請ができないという「2年ルール」があるようですが、その「2年ルール」を回避する方法もあるようです。これに関しては、確かな情報は把握していないため、「2年ルール」というものがあることだけ情報としてお伝えしておきます(不明瞭ですみません…)。

すぐにアメリカで働きたい(「働く」という言い方は相応しくないことと思いますが)場合の現実的な選択肢の一つが、このインターンになることと思います。もちろん、18ヵ月という期間限定であること、有給で仕事はできるものの高額な報酬は期待できないこと、仕事の経験として十分に評価されない可能性もあることなどのマイナス要素もありますので、その点は自分自身で情報を収集し、しっかりと考えた上で臨んで頂ければと思います。

また、J-1ビザの発給自体に年齢制限はないものの、インターンや研修生という意味合い上、30代までが現実的な年齢ライン(であると以前伺ったことがあります)でもありますし、上記のマイナス要素も考えると、20代の若い方にはお勧めはしやすいのですが、30代の方にはリスクの方が大きいと考えています。

■日本で採用され、その後アメリカ駐在という流れ

『日本で採用され、その後アメリカ駐在』というパターンについても、触れていきたいと思いますが、先にビザについてお伝えしておきますと、この場合、Lビザ(企業内転勤者ビザ)、Eビザ(貿易駐在員・投資家ビザ)など、ビザとしては日系グローバル企業であれば、比較的容易に取得可能なビザとなりますので、ビザが大きな壁になることはありません。これに関しては以下3つのパターンに分類できることと思われます。

・日系グローバル企業からアメリカへ

アメリカで勤務している日本人の多くはこの形で赴任されていることと思います。ただ、これを転職で実現しようとすると難易度が高いのが現状です。

入社して短期間でアメリカで勤務という場合、そのような求人がそもそも存在するのかというとほぼ存在せず、相当レアな求人になります。それでもアメリカ駐在を前提とした経理財務系の求人を以前いくつか扱ったことはございますが、管理職レベル且つアメリカ駐在経験を持つハイスペック人材を求めるものばかりでしたので、万人向けのものとは言えないのが現状です。

中長期で考えた場合、海外駐在を前提に経理財務で人材を採用することも多いのですが、必ずアメリカに行けるとも限らず、他の国や地域を打診されることもあり、いつ、どのタイミングで辞令が出るか分からないですし、運とタイミング要素が濃いものになると思われますので、アメリカ限定のように海外赴任先を固定して考える方には適さないことと思います。

・外資系企業(米系)からアメリカへ

日本に所在する外資系企業に入社した場合、短期のトレーニングや出張ベースでアメリカに行く機会はあれど、米国本社に呼ばれて勤務するとなると、その可能性は低いと言わざるを得ません。実例ベースではゼロではないため、会社により叶えられることもあるかもしれません。

・監査法人や税理士法人、FAS等の大手ファームから

アメリカ限定で考えた場合、中長期的な視点にはなりますが、日本のBig4等のグローバルファームで採用されて後々アメリカへ、というパターンが一番現実的では、と最近は考えております。本人の希望がない限りは他の国や地域に(半)強制的に活かされることはないですし。

アメリカ勤務は人気があり競争率が高いのがネックでかなり狭き門であるのは間違いないのですが、以前Big4への転職を支援したUSCPAの方で、入社数年後にアメリカ西海岸の事務所に移ったという話や、アメリカ東海岸の事務所にUSCPAが2名移りましたよ、という話をBig4勤務中のUSCPAの方から伺ったこともございます。

この場合は、良いパフォーマンスを上げることは当然の前提として、グローバルモビリティを担当している(グローバルモビリティのサービスを提供している部署のことではない)パートナーと良い関係を築きつつ、常日頃からアメリカに行きたいと言い続けることが秘訣かな、と考えている次第です。

■最後に・・・

その他、アメリカの大学、若しくは大学院を卒業後、OPT(Optional Practical Training)プログラムを使って、F-1ビザ(学生ビザ)のまま1年間働く中で就職活動を行い、就業先を見つけH-1Bのビザを取得し働くという手もあり、この場合は抽選のチャンスが2度あるためH-1B取得の確率が高く王道ルートとも言えたのですが、倍率の高さと規定給与の上昇(新卒にしては高い)もありスポンサー探しがより一層困難になると容易に想像がつきます。

時期としては不明確ですが、リーマンショック後2010年代の前半はH-1Bビザ取得のハードルが現在よりも格段に低く、アメリカ勤務がしやすい時代もありました。その当時は数多くのUSCPAがアメリカに羽ばたいていきましたが、残念ながらその時代は既に終わっています。

アメリカ勤務に限らず欧米等の先進国では「移民制限=自国民の雇用を守る」という風潮が続いていますので、これから風向きが良くなるとは期待できません。移民に関してオープンな姿勢であったオーストラリアでさえも、数年前から移民政策を転換し、移民制限の方針にシフトしている状況です。

ただ、これだけは最後に言いたいのが、時期やタイミング、運不運に左右されることはあれども、経理や会計人材としてアメリカ勤務を望むのであれば、上述の「日本で採用され、その後アメリカ駐在という流れ」の3パターンのいずれにおいても、USCPAの取得は有効であることは間違いありません。1つ目は選ばれやすさという点で、2つ目はそもそも持っていないと選ばれないであろう、3つ目はまずそのようなファームに入る上で、という意味で。

以上となりますが、「USCPAを取ればアメリカで働けますよ」的な、誤った(or 情報が古い)記事が検索上位で散見されたため、それを正す(or アップデートする)という意味で、厳しめな表現を用いさせて頂きました。当然ながら筆者は就労ビザのプロフェッショナルでもなく、個人的な体験談をベースとした私見も含まれておりますので、鵜呑みにすることなく、あくまでも参考として捉えて頂けますと幸いです。

明るい話題ではありませんが、現実の壁を把握してこそ夢を現実に繋げることと思っております。
長文乱文にもかかわらず、最後までお読みいただき有難うございました。

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