2017年8月14日 / 最終更新日:2024年8月26日
USCPAを取り巻く転職市場の変遷(その②:2009年~2012年)に続き、最終章として「2013年~2017年」までの時代を一つに括り、詳しく解説をさせて頂きます。
2013年から急激に転職市場が活性化したわけではありませんが、日本のみならず世界の先進国において景気回復の兆しが見られ、完全な回復には至らないまでも、それまでの深刻な沈滞から抜け出した年が2013年でした。
米国においては量的緩和政策の効果が徐々に表れ始め、欧州では欧州中央銀行による政策金利引き下げによって経済成長がプラスに転じました。日本においても、前年末に発足した第2次安倍内閣による、金融緩和政策と円安誘導政策を中心とした「アベノミクス」の効果が出始め、長期デフレと景気後退から脱し、景気好循環に向けた一歩を踏み出しました。
新興国の経済成長は停滞していたため、まだ全世界的な景気回復には至っていなかったものの、これらの景気回復の兆しは長いトンネルから抜け出したことを意味し、転職市場においては「買い手市場」から「売り手市場」へ突入する時代の幕開けとなり、2014年から本格的に転職市場が活性化し始めます。
この公認会計士試験を巡る状況は、USCPAを取り巻く転職市場の変遷(その②:2009年~2012年)で記述した内容とは、真逆の現象が起き始めました。
公認会計士試験の合格者数は、2008年の3,024名をピークに、2010年には1,923名、2011年1,447名と減少の一途を辿り、2014年~2016年の3年間は1千名台(2014年1,076名、2015年1,030名、2016年1,098名)にまで減少しました。※上記は旧2次試験合格者等を含めておりません。
合格者数減少の大きな要因となった受験者数も、2010年の25,147名をピークに、2015年には10,050名にまで激減し、ピークの40%にも満たない受験者数となりました。 また、公認会計士だけでなく、税務分野の国家資格である税理士に関しても、合格者数・受験者数ともに年々減少傾向にあります。
『合格者数の減少』⇒『会計・税務分野の転職市場における人材が減少(供給減)』⇒『人材の採用が困難になる』⇒『人材獲得のために条件を緩和し採用を行う』
という流れが顕著に見られ始めた2014年は、完全に「売り手市場」に移行した年となり、その後2017年に至るまで、この流れは変わらず続いています。
2010年~2012年に人員削減を行っていた大手監査法人では、2012年までは中途採用をほぼ行うことなく、水面下で高度なスキルを持った人材のみを採用する、という状況でしたが、2013年の後半頃から徐々に中途採用に動き始め、2014年からはほぼ全ての大手監査法人において、USCPAの採用を積極的に行うようになりました。
その一番大きな要因は上述した公認会計士試験合格者の減少によるもので、一時は圧倒的な人員過多であった時代から、深刻な人員不足の時代に突入しました。
上記の人員過多の時代の前にも、USCPAを大量採用を行っていた時代(2005年~2008年)もあり、この10年間で2度目の大きな波を迎えることになりましたが、1度目とは大きな違いが見られています。
その大きな違いとは主に以下の2点となります。
【1】大手監査法人全体として採用意欲が高い
2005年~2008年もUSCPAを大量採用していた時代ではありながらも、監査法人ごとにUSCPAの採用意欲はまばらで、積極採用をする監査法人と消極的な採用に留まっていた監査法人とで温度感が異なっており、大手監査法人2社に採用が集中していました。今だから言えることですが、USCPAを全く採用しない、という法人もありました。
ただ、この2度目の波では、年や季節ごとに採用の温度感に若干の差が見られるものの、大手監査法人全てにおいてUSCPAの採用を行うようになり、大手監査法人4社全てから内定を得るという事例も出てきました。
【2】USCPAを採用する部門が多岐に渡る
2005年~2008年は「USCPAの採用=金融監査部門」と言って良いくらいの時代でしたが、金融監査部門に限らず、一般事業会社向け監査部門、財務・会計アドバイザリー部門、金融機関向けアドバイザリー部門など、様々な部門でUSCPAの採用を行うようになりました。
上記のように、大手監査法人でくまなくUSCPAの採用を行っているだけでなく、数多くの部門で採用を行うようになり、選択肢も採用可能性も大きな広がりを見せております。
景気回復や公認会計士合格者の減少が「売り手市場」となった大きな背景であることは間違いないのですが、それ以外にも会計・税務分野において特筆すべき背景がございます。簡易ではありますが、以下にて解説したいと思います。
【1】IFRS任意適用を背景とした採用ニーズ
2010年3月期に日本電波工業株式会社が日本で初めてIFRS任意適用を行ったものの、2011年にIFRS強制適用が見送られ、2012年3月期までにIFRS適用を行った企業はわずか5社という状況でした。
ただ、強制適用が見送られた後に任意適用に動き出す企業が2013年3月期から増加し始め、2017年8月の時点で、IFRS適用済・適用決定会社数は153社(※日本取引所グループHPより)となりました。
景気が回復するまで余力のなかった企業や、適用の検討を控えていた企業が、IFRS適用に動き出したことにより、それを外部から支援するIFRSアドバイザリー・IFRSコンサルティングのニーズが生まれ、コンサルティング会社や監査法人のアドバイザリー部門、グローバル企業の経理財務部門で採用されるUSCPAも増加しました。
この時期までに強制的に完成させなければならないというJ-SOXバブル時代とは異なり、強制的な期限のない任意のものとなりますため、大幅な採用拡大とはならないまでも、短期的ではない長期的な採用ニーズが根強く続いております。
【2】クロスボーダーM&A増加を背景とした採用ニーズ
日本企業による外国企業へのクロスボーダーM&A件数は、2011年頃から徐々に増え始め、2016年には635件(M&A助言のレコフ社発表のデータより)と過去最多を記録し、金額ベースでは2015年は過去最大、2016年はそれに続く額となり、2年続けて10兆円を超える水準となっております。
金額ベースでは大型案件がある年とない年で差が出てしまいますが、クロスボーダーM&Aに限らず日本企業が当事者となるM&Aを件数ベースで見ますと、2012年より毎年10%前後増加しており、2017年は過去最大を超える勢いで推移しています。
会計の専門家はM&Aに関わるプレイヤーとして重要な役割を担い、FAS系コンサルティング会社では公認会計士を中心に採用を行ってきましたが、クロスボーダーM&Aの増加に伴い、英語能力を必須として募集する傾向が高まり、企業経理出身のUSCPAが採用されるなど、間口を広げて採用活動を行うようになっております。
【3】税理士法人の移転価格アドバイザリーはBEPS需要が高まる
移転価格アドバイザリーという分野は、2009年~2012年の転職市場低迷期にも採用活動を行っていましたが、その時とは別の背景で募集が活発になっています。
その背景とは、BEPSと呼ばれるもので、「Base Erosion and Profit Shifting(税源浸食と利益移転)」の頭文字をとったものです。
このBEPSの細かな説明は他の記事で触れて行きたいと思いますが、OECD(経済協力開発機構)とG20が進めてきた国際プロジェクトで、そのプロジェクトの主要なテーマに国際租税、移転価格が組み込まれています。ビジネスがグローバル化し複雑化している中で、従来の古い国際租税の枠組みでは限界があるため、国際租税の枠組みを新しいものにしよう、移転価格税制のガイドラインをしっかりと整備していこうというもので、国際租税分野においては大きな転換期を迎えることとなりました。
BEPSプロジェクトの影響度の大きさが故に、多くのグローバル企業はBEPSに注目せざるを得ない状況となり、情報収集やBEPS最終決定後に求められる対応のために、大手税理士法人にアドバイザリーを依頼する事例が増加しました。
2017年においては、BEPS対応に向けて整備が進みつつあり若干の落ち着きは見られ始めたものの、このBEPS需要を背景に、USCPAに限らず企業経理出身者や金融機関出身者などを対象に、大手税理士法人の移転価格アドバイザリー部門では中途採用を積極的に行っています。
監査法人、税理士法人、M&Aアドバイザリーを行うFAS系コンサルティング会社、IFRSをテーマにした採用などを中心に書かせて頂きましたが、これらの背景や分野に限らず、グローバル企業の経理財務部門での採用増、それら経理財務部門を対象にコンサルティングを行う会社、海外会計事務所等でも求人が増加し、完全に売り手市場へ転換しました。
USCPA及び会計分野を取り巻く転職市場は低迷期から息を吹き返しただけでなく、過去の大量採用時代とは異なり、選択肢が大きく広がることとなりました。どこまで選択肢が広がるかは個々の持つ経験やスキルによって様々ではありますが、「どこに転職できるのか」という時代から、「何をしたいか」を考えて転職活動を行うべき時代になっていることと思います。
USCPAを取り巻く転職市場の変遷をテーマに、3部に渡り歴史を綴らせて頂きました。
長文になりましたが、ここまでお読み頂き有難うございました!!!
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