2024年5月1日 / 最終更新日:2024年10月16日
元々は最終章としてUSCPAを取り巻く転職市場の変遷(その③:2013年~2017年)でこのシリーズを締め括らせて頂きましたが、その続編として「その④:2018年~2023年」の6年間を一つに括り、詳しく解説をさせて頂きます。
これまでの変遷は過去の記事をお読み頂ければと思いますが、簡潔に申し上げますと「USCPA隆盛期」→「転職市場の氷河期」→「積極採用とUSCPA採用の多様化」と変化を遂げてきましたが、この「2018年~2023年」はジェットコースターとも言えるような変化の激しい時代となりました。
「買い手市場」から「売り手市場」に転換した2014年から続く採用ニーズの高さは2018年も留まることなく続き、監査職で科目合格採用(契約社員)を行う監査法人も一部あったように、ファーム全体として間口を広く設けて採用活動を行う法人/会社が数多く存在し、会計分野未経験のUSCPA合格者だけでなく、未就業やそれに近しい経歴の方、数か月間の短期で転職を繰り返している方、年齢が高めの方など、様々な経歴の方が採用されておりました。
2019年は働き方改革の一環で続いてきた緊急性の高い採用はほぼ終息したこと公認会計士試験合格者の定期採用で大手の各法人とも順調に採用が進んだこともあり、監査法人の監査職に関しては若干採用ニーズに陰りは見られました。ただその一方で、経理財務・経営管理機能のDX推進というテーマは一定の盛り上がりを見せ、それを支援する監査法人内のアドバイザリー部署で積極採用を行う法人が見られ、GRC(ガバナンス・リスク・コンプラインス)分野、移転価格分野、FAS(M&A)分野などのアドバイザリー、コンサルティングにおいては、法人/会社・部署等で違いはあれども採用ニーズの高い状態が続いておりました。
「海外で新しい感染症が流行っているらしい」と耳にしたのは、ちょうど2020年の年明け頃。その後2月にはクルーズ船集団感染のニュースが毎日のように流れ、3月には新型コロナウイルス対策の特別措置法が成立し、4月7日に第1回目の緊急事態宣言が発出されたことは皆さんも記憶に新しいことと思います。
今までに経験のないパンデミックという事態にある中で、「当面の間、中途採用を全面的に停止します」というアナウンスが各法人/企業から届き、当時選考が進行している方も採用活動停止に伴い実質的に採用見送りとなってしまった事例もありました。もちろん業界全体で停止となったわけではなく、採用ターゲットを縮小しマネージャー以上の層に絞った上で採用活動を継続したところも数多く存在しましたが、2020年はこれまでの高い採用ニーズから一気に採用凍結・縮小へ転落した年でもありました。
余談ですが、第1回目の緊急事態宣言があってからの3か月間はほぼ仕事にならず、弊社としても転職支援、相談の対応に苦慮しておりましたが、行動制限が解除されて間もなくしてとある法人が従来とほぼ変わらない基準で採用活動を再開し、当時はその法人にだいぶ救われました。また、採用活動全面凍結という建前上、表立った採用はできないものの、水面下でこの部署のこの拠点だけは採用活動を行っている、なんてこともあり、部署/拠点ごとに小まめに採用状況をアップデートしながら、どこのどの部署のどの拠点であればチャンスがあるのかを逐次細かく見極めながらサポートをさせて頂いた記憶が残っています。
これまでの流れとは少し異なりますが、この時代の大きな変化として取り上げずに終えるわけにはいかず、少しだけ触れておきます。
まず、面接方法についてですが、コロナ禍に入る前までは、法人/企業に訪問して面接に行く(対面での面接)が当たり前で、遠方在住の方も(最悪リモートで行うけど)できるだけ来てほしいという法人/企業がほとんどでした。仮にリモートで行うにしても顔の見えない電話面接でした。そのため、地方在住の方が東京での面接を複数セッティングする際に、まとめて数日間休みを取り東京に滞在してもらい、その中で面接をねじ込む、なんてことは決して珍しくはありませんでした。
コロナ禍に入ってからは近隣か遠方かに関わらず、Webツールやアプリを利用したリモート面接に切り替わりました。コロナ禍が明けてから一部は対面での面接のみに戻したところもありますが、Big4を中心にファーム系における面接はリモートでの実施が主流となっております。
ワークスタイルに関しては、コロナ禍前はリモート勤務は育児中など限られた方のみに許容されるなど、限定的な運用に留めるファームが多かったのですが、コロナ禍後は在宅リモート100%は稀有であるものの、オフィス勤務は週1回、必要時のみオフィスに行くなど、在宅勤務が定着化し、柔軟性をもった働き方ができるようになったのも、この時期からであったことと思います。
話を戻します。
パンデミックにより先が見通せない状況下の中で採用の凍結・縮小、いわゆる採用氷河期が突如として訪れましたが、2020年の終わり頃から徐々に採用の再開が見られ始め、2021年も回復傾向が続き積極採用にシフトする法人/企業も出てきました。
個人的にこの年に一番大きかった出来事と言えば、これまで監査職の採用を(ほぼ)凍結していた大手監査法人の2法人が監査職の採用を2021年10月から全面的に再開したことです。監査職はUSCPA合格者であればあまり経歴を問わずに採用することが多いため、特に会計領域の経験を持たないUSCPA合格者にとっては非常に大きなニュースであったことと思います。そして、この頃からファーム業界における人材獲得競争が激化し始めます。
日本における企業活動は、コロナ禍を受けて2020年第2四半期(4~6月期)には、生産、サービス、輸出ともに大きく落ち込みがあったものの、輸出に関しては2020年第4四半期(10~12月期)には前年同期を上回る水準となるなど、企業業績の回復が見られ始め、対面型ビジネスの業界等は大きな打撃を受け回復は遅れながらも、経済全体で言えば回復基調ではありました。
経済が回復し企業活動が活発になるとやはりファーム系の仕事は増えやすくなる(もちろん他の要因で増えることもある)のですが、それまで1年~1年半ほど人材採用を控えてきたこともあり、中には人員が純減していたところも珍しくはありませんでした。マイナスとなった人員からゼロ、そして需要の戻りからプラスにするために、2022年には1つの部署だけで数十名~100名を超える規模の中途採用を予定していたところも複数存在し、スタッフ/アソシエイト層を中心とした積極採用が監査法人、税理士法人、アドバイザリー/コンサルティング会社等、ほぼ全ての分野/領域において積極採用を行うという中途採用バブルと言っても良い程の活況となりました。
この積極採用に拍車をかけたのはこのESG・サステナビリティ分野。
背景として、2001年に策定された「ミレニアム開発目標(MDGs)」の流れを受けて、2015年9月の国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、持続可能な世界を実現する、その気運が年を追うごとに高まりを見せる中、企業のサステナビリティに対する関心も高まり、サステナビリティを軸とした成長戦略を模索する企業も見られるほどとなっています。サステナビリティ課題への対応が企業として強く求められる時代になったとも言えます。
Big4のグループ内でも以前からESG・サステナビリティを専門にサービスを提供する会社はありましたが、2021年、2022年頃から監査法人内で新たな専門部署を立ち上げたり、グループを横断した組織を設けたりするなど、この分野のてこ入れを進めSX(サステナビリティトランスフォーメーション)サービスの拡充を図ってきております。
一方で、ESG・サステナビリティ分野は、気候変動/温暖化対策、生物多様性/自然資本、社会課題/人権対応、サーキュラービジネスなど、テーマが広範囲に渡ること、且つ経営戦略に係る部分であること、ビジネスとしては(今後数十年続くことを前提に)まだ黎明期であることなどから、中途採用という観点からはコンサルティング業界出身者や経営企画出身者を求める傾向が全体として強く、USCPA、会計士と親和性のあるものとしては、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)などの基準/開示対応及びその体制構築、非財務情報の第三者保証業務など、まだまだ限定的であるため、間口を広げた採用を行っているのはごく一部となっている状況です。
ただ、上述がより制度化、具体化していく中でUSCPA保持者への採用ニーズが高まる可能性は十分にありますし、少なくともこの分野がファーム業界の中途採用を大きくかき回していることは事実であると考えております。
それまで上昇基調であったファームの中途採用が減速し始めたのは2023年の夏くらいでしょうか。特に大きな変化があったのは監査法人の監査職で、夏から秋にかけて大手から中堅・準大手に至るまで採用がほぼ充足し、会計未経験のUSCPAの採用は大きく落ち込んでしまいました。
その背景は「令和5年公認会計士試験合格者調」を見て頂ければお分りになることと思いますが、2015年を底に年々試験合格者が増加しており、2023年は1,544名と、この8年間で約1.5倍となっております。加えて、願書提出者は20,317名と、同じ2015年の10,180名と比較し約2倍にまで増加し、2022年から公認会計士人気が爆発していることが伺えます(その人気の要因は詳しくは分かりませんが、コロナ禍が大きく影響したことと考えています)。個の公認会計士人気により論文式試験合格者を対象とした定期採用の比重が高まり、中途採用の依存度が下落したことが大きな要因であることと考えております。
また、ファーム業界全体として、経験者を中心としたシニアスタッフ/シニアアソシエイト層の採用にシフトした法人/企業も多く見られ始めましたが、2021年の終わり頃から約1年半~2年程の間、積極採用のアクセルを踏み続けてきたため、スタッフ/アソシエイト層を中心とした採用が落ち着いてしまったこともその減速の背景にあることと思います。
当初の構想から追加したり論点から外したり、自分の語彙力の無さを嘆いたり…と、悪戦苦闘しながら仕上げましたが、ただ単にこの6年間の流れを書いただけにすぎず、相変わらずの駄文で恐れ入ります。売り手市場と買い手市場が1,2年単位で大きく入れ替わり、変動の激しい時代であったため、この6年間は一括りにするべきではなかったかもしれません…
「中途採用が縮小傾向に」という暗雲っぽい終わりにしてしまいましたが、全体としてはこの流れになってはいながらも、分野/領域ごと、法人/企業及び部署ごとで採用意欲は大きく異なり、中にはまだまだ積極採用を続けているところはあります。楽観して良いとは言えませんが、過度に悲観視することなく、転職活動や学習に向けて邁進して頂ければと思う次第です。
最後までお読み頂き有難うございました!!!
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