2017年6月20日 / 最終更新日:2024年8月26日
USCPA(米国公認会計士)を取り巻く転職市場の変遷「その①:2005年~2008年」に続き、「2009年~2012年」の4年間を一つの時代として括り、詳しく解説をさせて頂きます。
2008年9月15日に投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが破綻したこと(リーマン・ショック)を発端に、金融危機が全世界で連鎖的に発生したことにより、翌年の2009年の前半から転職市場全体が急速に冷え込み始めました。
景気低迷期であったとしても、企業経営において会計・税務はなくてはならないもので、景気の浮き沈みの影響を受けにくい仕事であるはずでした。しかし、会計・税務業界も転職市場全体の氷河期に飲み込まれ、中途採用の凍結が相次ぎ、求人が激減し競争相手が多い中で、当時USCPAに全科目合格された方の多くが転職活動に苦戦を強いられました。
「景気変動に強いはずの会計・税務業界が、なぜそれほどまでに冷え込んだのか?」
それはリーマン・ショックだけでなく、それ以外に多くの要因があったからです。
内部統制報告制度の初年度は、2008年4月1日以後開始する事業年度(2009年3月期~)からと決まっていたため、多くの企業が一通り構築を終え、運用のステージに入った時期と奇しくも重なってしまいました。
その運用のステージに入り、少数の人員で業務を回せることになったため、それまで内部統制の構築に動員された多くの人員が必要とされなくなってしまいました。加えて、J-SOX対応を機にリスクマネジメントを重要視し始め、内部監査部門の強化を図っていた企業も、景気低迷によって目の前の売上や利益を重視せざるを得ない状況になってしまい、内部監査部門の強化どころではなくなってしまいました。
そのため、それまでUSCPA合格者や学習者を採用対象としていた内部統制や内部監査関連の求人が、急速に転職市場から姿を消し、数年間隆盛を極めたJ-SOXブームが終焉を迎えることになりました。
日本の公認会計士試験が、2006年から新試験制度に移行したことによって、合格者が急激に増え始めます。旧2次試験合格者等を含めず純粋な合格者数でカウントした場合、移行初年の2006年こそ1,372名(合格率8.4%)の合格と、前年2005年の1,308名(合格率8.5%)と比較し若干の増加に留まりましたが、翌年の2007年は、2,695名(合格率14.8%)、2008年3,024名(合格率15.3%)、2009年1,916名(合格率9.4%)、2010年1,923名(合格率7.6%)と、2007年~2010年の4年間(特に2007年と2008年)は、公認会計士試験の大量合格が話題となりました。
昨年2016年が1,098名(合格率10.8%)であったことを考えると、2~3倍近くの試験合格者が出たことになりますので、その多さがお分かりになることと思います。※同様に旧2次試験合格者等を含めず。
2007年、2008年は大量の合格者が出たものの、上述のJ-SOXブームの背景もあり、四半期レビューと内部統制監査が始まり業務負荷がかかることも想定されていたため、売り手市場の中、合格者の多くが大手監査法人に採用されていました。
ただ、2009年以後はリーマン・ショック、IPO社数の激減、想定程の業務負荷ではなかったことなどの要因に加えて、それまでの大量採用のツケが回り、買い手市場に逆転してしまい、試験合格しても監査法人に入社できない、実務要件を満たせる業務に就けない、という待機合格者問題が社会問題となりました。
加えて、2010年から大手監査法人を中心に大規模な人員削減を行い始め、単に大手監査法人での中途採用がなくなっただけでなく、監査法人出身者が転職市場に溢れ出すという状況。
大手監査法人ではUSCPAを採用していた部署に限らずほぼ全ての部署で中途採用を凍結してしまい、転職市場全体の冷え込みで求人が減少している中、監査法人以外の会計・税務業界で転職活動をするにも転職市場に溢れている公認会計士(試験合格者を含む)が競争相手、という厳しい状況となってしまいました。
当時、会計業界で需要が高まるであろうと考えられていたのが、「IFRS強制適用」というテーマ。
最短で2015年に実施される可能性があった「IFRS強制適用」を見据えて、大手企業ではIFRS推進プロジェクトを立ち上げ、準備を進めているところも多く、それを外部から支援すべく監査法人やコンサルティング会社で、IFRS導入のアドバイザリーにも力を入れ、ブームの到来も予感されておりました。
求人数は少ないながらも、このIFRSをキーワードとした中途採用が盛り上がり始め、水面下で募集のあった監査法人のIFRSアドバイザリーや、日系企業内でのIFRS推進業務等でUSCPA合格者が採用されるケースが出始めており、このままの流れで転職市場が活性化されるのでは、という期待感もありました。
ただ、その期待は2011年6月21日に脆くも崩れ去りました。当時金融庁の担当大臣であった自見庄三郎大臣が会見を開き、IFRS強制適用の時期を、2015年から2017年以降に延期する考えを表明しました。背景には東日本大震災による被害、米国がIFRS適用に難色を示していたことなどが挙げられていましたが、この会見によって、延期だけでなく実質的に強制適用はなくなった、という見方をする専門家も見受けられました。
筆者も転職のサポートという立場で、IFRSに関する情報収集を行っていましたが、噂レベルでの話や当時の政治的な情勢を考え、会見前から2015年のIFRS強制適用は難しいだろうと考えており、業界内でも延期されるのではないかという風潮もありました。ただ、実際に会見のインパクトは大きく、IFRS適用のために組成したチームが次々に解散するなど、盛り上がりかけたIFRSをキーワードとした中途採用のニーズが、沈下の一途を辿ることとなりました。
2010年3月31日に公布された税制改正によって、移転価格文書作成義務制度に近しい制度(義務化や罰則規定等はない)が導入されることとなりました。
2006年から2008年の間に武田薬品工業や本田技研工業等の大手企業が、移転価格税制に基づく多額の追徴課税処分を受けていたという時代背景もあって、移転価格が注目されていた中、実質的に文書化は不可避という建前のもと、税理士法人において移転価格アドバイザリーのニーズが拡充し始めました。
大手税理士法人の中では、そのニーズに対応すべく中途採用を活性化しておりました。このトピックの時代である2009年~2012年の間、専門ファームに行きたいというUSCPA合格者の方も多くございましたが、採用を凍結、若しくは縮小している監査法人やコンサルティング会社への転職は叶わなかったのものの、税理士法人の移転価格アドバイザリー部門へ転職されたUSCPA合格者が数多くいた時代でもありました。
また、移転価格アドバイザリーの話題とは異なりますが、インバウンド企業(外資系企業)を扱っている会計事務所ではほぼ凍結していたものの、海外アジアに拠点を置く会計事務所においては、日本人の採用を行う事務所も多数存在していました。日本での転職が叶わず、目先を海外アジアに向け転職活動を行い、現地で日本企業を相手に会計・税務、進出・撤退等のサービスに従事するUSCPA合格者も多かったことと記憶しています。
この2009年~2012年の間は、日本経済も長く暗いトンネルの時代となりましたが、USCPAの方にとっても同様で、限られた求人の中で転職せざるを得ない状況でした。転職サポートを行う立場としても、当時は求人を開拓しようにも中途採用そのものを行っていない、という企業も多く、皆様が満足のいくサポートもできていなかったことと思います。
その長く暗いトンネルの中で光が見え始めたのが、2013年からとなります。続きは、USCPA(米国公認会計士)を取り巻く転職市場の変遷「その③:2013年~2017年」で解説をさせて頂きます。
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